第7章 色が変えるココロ、色で変わるコミュニケーション

●色を操れば、友達と1歩差がつく!

このブログを読んで頂いている方の多くは、おしゃれをするのが好きな人ではないかと思います。とくに女性に限って言ってしまえばおしゃれをするのが嫌いな人は、ほぼいないのでは。ただ、おしゃれのことを考えたり、実際に服をコーディネートするのが得意な人と苦手な人に分かれることはあるでしょう。「今日の服、似合っているね」「いつもおしゃれですね」などと他人から言われて気分を害する人はいないはずです。他人がじぶんの服装を肯定的に捉えている、もしくは羨望のまなざしで見ていると分かったとき、おおむね、人はとても心地よい気分になります。そう、これこそ人におしゃれをさせる重要な動機なのです。
ここで、脳のある働きについて見てみます。脳科学によると、脳には「報酬系」と呼ばれる神経伝達回路があるそうです。その仕組みはざっくり言うと、「報酬」と呼ばれる種々の刺激を受けることで快感が得られるというもの。「報酬」の種類は一般的に「感覚的報酬」「物理的報酬」「社会的報酬」「知性的報酬」などに分けられます。

  • 「感覚的報酬」は人間の三大欲望(食欲・睡眠欲・性欲)などに伴う快感のこと。もともと人間に備わっている生理学的な快感と言えるでしょう。
  • 「物理的報酬」は、お金や物品などを手に入れたことによる快感。
  • 「社会的報酬」は社会生活において発生する快感。たとえば親や先生に褒められる・友人に認められる・会社で昇進するなど、他者との関わりの中で生まれる快感のこと。
  • 「知性的報酬」は読書や勉強、いまならネットサーフィンなどで新しいことを知ったときなどに生じる知的好奇心が満たされたときの快感。

以上の中でもとくに、おしゃれのモチベーションを上げるのが「社会的報酬」と言えるでしょう。女性に話を特化するならば「物理的報酬」(=ブランド品や最先端トレンドアイテムなど他人が持っていないものをゲットした)も加わります。
ここではさらに「社会的報酬」の背後にある女性の特性について考察してみます。そこから見えるものは「女性の同性への対抗意識」や「嫉妬心」です。つまり、女性がおしゃれをする動機のひとつには「周囲にいる同性と同等あるいは少し上のランクに見られたい」という気持ちがあるわけです。その心理の背景には、同性のライバルの中から異性に選ばれて伴侶となり子孫を残したいという本能的なものもあると思われます。そして、「嫉妬」。じぶんと容姿や地位がそれほど変わらない、いわば同じグループに属している他の同性に負けたくないという意識が働くこともあります。「私と同じような体格で成績も似たようなクラスにいる。顔の造作もそれほど違いはないのに、あの人はおしゃれだというだけで褒めらている!!」というような状況でしょうか。また、心理学的にみるとじぶんのコンプレックスを刺激されることによっても嫉妬が芽生えると考えます。「彼女がモテるのは痩せていてスタイルがいいからだ。私だって痩せれば……」という状況。このときの

コンプレックスを感じる→不快だ→不快を感じない状況にしたい

という心理の流れから

「同性よりもさらに美しくなって認められたら、この不快感が無くなるはず!」

と奮起するパワーすら、生まれるのです。少々、ネガティブなスタートではありますが、嫉妬は上手にコントロールできればじぶん磨きのきっかけになります。必ずしも「彼女に嫉妬するなんて私ってイヤな女!」と否定的になる必要はありません。悔しいと思った相手に対するマイナスの感情にとらわれるのではなく、「じゃあ、私はどうしたら彼女のようになれるのか」を考えてみることが大切。悔しさをバネに前に進めばいいわけです。
さて、女性が社会的に「じぶんがおしゃれであること」を求めているのは、心理学的にも、脳科学的にも導き出される現象であることはお分かりいただけたと思います。そこで、この章ではおしゃれに見せるノウハウの基本として、色について解説していきたいと思います。色はじぶんに似合う色、じぶんの気持ちを高めてくれる色、パートナーとのコミュニケーションに役立つ色などについてくわしく説明します。色選びひとつでじぶんを若く見せたり、逆に老けてみせることもできるのです。流行は時代によって移り変わりがありますが、似合う色には不変的なセオリーがあります。これら2つのテーマについての知識さえあれば、「気に入って買ったけれどなんだか似合わない」「太って見えると言われた」「老けて見えると言われた」などの残念な服選びを避けることができるはずです。それどころか着痩せをして、美肌に見られる着こなしがカンタンにできる色と人との関係について解説していきます。

●色と脳は仲がいい

最初に色について簡単に解説しておきます。太陽の光にプリズムを当てると虹のような色の帯を見ることができますね。小学校の理科の授業などで眼にしたことがある方も多いのでは。この色の帯をスペクトルと言い、それぞれの個々の色は波長と言います。このうちの特定の波長の色であれば人は見ることができ、それらの色は可視光線と呼ばれます(人の眼に見えるもの、見えないものをひっくるめたのが電磁波)。
電磁波の単位はナノメートル(nm)と呼ばれ、可視光線はおよそ380~780ナノメートルの範囲内。たとえば、赤はおよそ620~750ナノメートルであり、波長の違いがそれぞれの色を違う色として脳が認識しているのです。それぞれの色の波長はおおむね以下の通り。

紫=380〜450nm/青=450〜495nm/緑=495〜570nm/
黄色=570〜590nm/オレンジ=590〜620nm/赤=620〜750nm
※資料によって数値は異なります。およその数値を表記しています。

色の波長は目から視床下部〜下垂体〜松果体に伝わり、大脳の視覚野に到達するといわれています。脳科学では、色の波長によって自律機能を調整するホルモン分泌が行われたりすると考えられています。それぞれの色と関係するアドレナリンについて第5章の「美人になる裏ワザは色のトリック」のところをご参照ください。
ここで参考までに色が人に影響を与えた具体的な事例として、海外での実験結果をご紹介しておきます。ある工場の休憩室の壁面がブルーに塗られていたときの事例。従業員は始終「寒い」と苦情を言っていたため、壁をオレンジに塗り替えたそうです。すると、以前より低い室温設定の場合でも従業員たちは「暑い」と言うようになったとか。ブルーという色の印象は「涼しげ」で、オレンジは「暖かい」が一般的。つまり視覚で得た色の特性に脳が同調し、体感温度まで変えてしまったということになるわけです。
ちなみに、この実験結果の裏付けとして、なぜ人が「ブルーは寒い」「オレンジは温かい」と感じるのかを解説しておきます。武蔵野美術大学教授である千々岩英彰氏の著書「人はなぜ色に左右されるのか」(河出書房新社)によると、
「温かい色・寒い色といった場合は、皮膚の温感感覚と関係があり、色の温度感覚も世界共通のものといっていい。先の調査結果を見ると、世界の国での暖色の一位はオレンジ色で、次いで赤、黄となり、暖色はこの三色でほとんど示されるといっても過言ではない」。
とあります。先の調査結果というのは、千々岩氏が通産省所管の特殊法人である「新エネルギー・産業技術総合開発機構」の委託を受け、1995年から1997年にかけて世界の主要20カ国(23地域)の美術デザイン系大学生5375名を対象に色彩の好みやイメージなどについての調査した結果に基づくデータだそう。
その調査結果によると寒色については「青、水色、白が上位にきて、その次に濃い青で、銀色もある」とあります。
暖色・寒色と色の関係については「暖色のほうは常識的に考えれば、そうした色から太陽や炎を、一方、青系統や白の寒色は水や氷、雪といったものをイメージするからだろう」と千々岩氏は分析しています。千々岩氏の考察は前述の「工場の壁の色に対する工員の反応」を裏付けるものであり、色と人の感覚との間にはなんらかの関係があると考えることができます。人間の脳と体の機能はじつに複雑であり、神秘的でもあります。色から受けたイメージで体感温度まで変えてしまう不思議。いわゆる「イメージトレーニング」は、人間のこの能力を利用したノウハウになるわけです。イメージングの有効活用によるマインドトレーニングはこれからも掘り下げていきたいテーマのひとつです。