●じぶんを育てる服と出会う
ある心理学の実験についてご紹介しましょう。対象は3才から6才の子ども約40人。彼らに3次元コピー機を「どんなモノでもコピーできるんだよ」と説明し、実際に見本のオモチャのコピーをして見せたそうです。それを見た子どもたちの反応が面白い。コピーのおもちゃに大興奮した彼らは、オリジナルのおもちゃよりコピーに対して関心を示す傾向にあったとか。ところが、次に同じ子どもたちに「きみたちの大事なおもちゃを同じようにコピーしてあげよう」といったとき、ほとんどの子どもがそれを拒否するという結果がでたそうです。オリジナルだからこそ、価値がある。愛着があるし、じぶんの好みにしっくりくる。手になじむ……。この実験から、人はオリジナルのものを手にしたときに得られる高揚感を好むということがわかります。
ファッションについても同じことがいえるのではないでしょうか。好きなブランドのアイテムを手にしたときの幸福感は格別です。もし、それがコピー商品であったら? デザイン的な相違に差がなかったとしてもオリジナルが人に与える心理的作用は望めない。「コピー商品をさも本物のように偽って他人に見せる」というような使いかたをすれば、卑屈な体験にもなるはずです。
一流ブランド品にはデザイナーや職人のこだわりやプライドという背景があります。生地や皮の色、厚さ、縫製の仕方など隅ずみまで計算され、唯一無二のものだという作り手の自信が存在意義を高めているのです。そこで提案したいのが「じぶんに自信がないときほど、一流ブランドの力を借りてもいい」。つまり「虎の威を借る」のです。それを実行しているのが液晶画面の向こう側にいる芸能人や有名人。彼らは競争の激しい世界で少しでもじぶんの存在価値を高めてライバルに勝つために、より上質のブランドを身につけて力を借りているのです。この方法は、かなり有効。ブランドによる仮のパワーを得てじぶんを大きく見せる。最初は仮のパワーでも、やがてはじぶんの栄養になり、じぶんを変化させるきっかけ作りにもなるはず。だから、大切な会合などがある際は少し背伸びをしてハイブランドのスーツなどを用意してみることをお勧めします。その服を着たじぶんを鏡で見たときの気持ちをじっくりと見つめてみてください。背筋がシャキッと伸びるのか、少し畏怖する気持ちがあるのか、やっとこの服が着られるようになったことへの感慨か……。いずれにしても、いままで経験したことのない気持ちなのではないでしょうか。それは、人生の新しい1ページが開かれた証でもあるのです。私自身、アルマーニやジル・サンダーなどのハイブランドのパワーに何度も助けてもらい、育ててもらいました。じぶんを育ててくれる服選びのポイントは「いまのじぶんに似合う服」ではなく「目標とするじぶんに似合う服」にすることです。最後に、ナポレオンの有名な名言を紹介しておきます。
“人はまとった制服のしもべになる”