●ファッションからのメッセージ
躍動的なファッションができるときは精神面も健全であると考えられます。
以下は私の体験談。仕事でストレスが重なっていたとき私は無意識のうちに3日間、同じ服で仕事に行っていました。入浴をしていなかった訳ではなく、朝、服のコーディネートを考える気力がわかなかったのです。化粧をする気もせず、髪の毛は無造作にひとまとめにしていました。
そんな日が3日続いたとき、ふと鏡の中の自分を見て、その生気のなさにびっくり。初めて自分の内面の危うさを自覚することができました。じぶんが変だと意識できた時点で立ち直ることができましたが。
私の体験も踏まえた上で述べるのですが、ファッションはストレスのバロメーターに成りえます。服のコーディネートやヘアメイクが均一したパターンから抜け出せなくなっているときはストレスのサインだと疑ってみてください。
変化の無いファッションは内面の危機管理にとって重要なだけでなく、コミュニケーションをする相手にとっても、ときとして有り難くないメッセージを発信してしまうことがあります。たとえば、恋人や夫などの身近なパートナーに対して同じジャージウエア姿しか見せないとか、特別な記念日にも地味なファッションしかしない場合、相手に「あなたに会うことは私の重要事項ではありません」と伝えてしまう恐れがあります。「心を許している相手だから、大丈夫」がいつも通用するとは限りません。ファッションに少し気を遣ってみることで「あなたに会えてうれしいから、私なりにおしゃれしました」と、非言語のメッセージを発信することもできるのです。メッセージを受け取った相手もイヤな気はしないはずです。「親しき仲にも礼儀あり」ならぬ「親しき仲にもおしゃれあり」です。ふだんのファッションを見直すだけでまわりの世界がいままでよりもっと心地いい世界に変貌するとしたら? ファッションを最大限に有効活用して有意義な時間を作ることができるのが、ファッション・コミュニケーションなのです。
ファッション・コミュニケーションは人対人ばかりに有効ではありません。プライベートライフを快適にするツールとしても有効です。学校や職場から帰宅して、再び外出する予定がなければ着替えをするはず。おそらく、リラックスできる部屋着でしょう。では、夜、就寝する際にはどうでしょう。部屋着とパジャマは同じという人は、意外に多いのです。
オムロン ヘルスケアとワコールが2013年3月18日の「春の睡眠の日」に向けて行った「パジャマと眠りに関する共同実験」があります。対象者は国内在住の20〜40代で、ふだんはパジャマに着替えずに就寝する男女30名(男性10名・女性20名)。彼らがパジャマに着替えることで眠りにどのような変化があるかを調査しました。結果を見ると……
〈寝つきにかかった時間〉
・パジャマを着なかったとき 平均47分
・パジャマを着たとき 平均38分
〈夜中の目覚め回数〉
・パジャマを着なかったとき 平均3.54回
・パジャマを着たとき 平均3.01回
この実験から見ると、パジャマを着ることで眠りにいい影響を与えられることがわかります。眠りと深い関係があるのが自律神経で、自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は昼の行動を助けてくれるもの。夜、リラックスした状態や眠りにつくときの働くのが副交感神経。交感神経から副交感神経に切り替わるときには少し時間がかかるのですが、パジャマに着替えるなど眠る前のお約束となる行動を起こすことでスムーズな切り替えが促されるそうです。この眠りにつく前の習慣を「スリープセレモニー(入眠儀式)」とも言います。心地よい眠りの儀式としてパジャマに着替える効果は、前にも解説した「アンカリング」でもあり、先ほどの習慣化ともつながってきます。
さて、多くの人は「人間のココロとは、とかく複雑だ」と考えがちですが、じぶんが望む方向にココロを動かすことが意外にたやすくもあるということが、この本を読むことでお分かりいただけたでしょうか。そして、ココロのスイッチを切り換えサポートをしてくれるのが服のパワーであり、人の心理面に働きかけるファッション・コミュニケーションなのです。ココロ、命を輝かせる服があることがわかれば、人生はもっと楽しくなるはずです。「じぶん探し」に疲れて人生の迷子になりそうなときは、ぜひ服のパワーを借りてみてください。「こんなことで!?」と拍子抜けするぐらい、目の前の壁がなくなるような体験ができるはずです。