●失敗体験によっておしゃれセンサーが磨かれる
第2章で「失敗体験もじぶんの引き出しにしまっておく」という項を書きましたが、失敗体験をじぶんの中でうまく咀嚼することは成長につながります。
かくいう私もたくさんの失敗体験を経てきたひとり。そのうちのエピソードのひとつが、ジャケットの着こなし。少し前までビジネスシーンにおける私の制服はジャケットでした。プレゼンなどの重要な場面はもちろん、気心の知れたクライアントとのちょっとした打ち合わせなどでもジャケットスタイルが定番。それは「相手を尊重し、きちんとした服装でお会いしたいから」という気持ちからの選択でした。それが、ここ数年のうちにちょっとした打ち合わせの場合、ハイブランドのアイテムではあるもののニットスタイルなど、カジュアルテイストの服装で行く機会が増えてきました。ただし、カジュアルではあってもトレンドを押さえていたり、クライアント関連のショップで購入したアイテムであることなど、いくつかのポイントが。すると打ち合わせの際、「今年のトレンドをいち早く押さえていますね」「うちのショップで購入されたアイテムなんですか!」など、会話の幅が広がるようになったのです。ジャケットスタイルのときであれば、必要なビジネス会話をして終わっていたコミュニケーションの幅が広がったわけです。
ジャケットスタイルに関しては、こんな失敗も。アラサーのときのことです。イタリアから来日したベネトンのデザイナー(社長の妹)のアテンダントをさせていただいたことがありました。私は失礼のないようアルマーニのスーツを着たのですが、それを見た彼女が「あなたの年齢でなんて地味なスタイルをしているの!? イタリアでは50代の公務員の女性がするようなスタイルよ!」と驚かれてしまいました。ベネトンといえば、カラフルな色使いのニットで一世を風靡したブランド。私ももっと色使いなどに気を遣うべきだったな、と後で反省しました。失敗体験が「ジャケットスタイルは万能ではない」と気づかせてくれたのです。ときとしてジャケットは一方通行のコミュニケーションしか生まないことを学びました。そのことに気づいてからは、相手の目線に合わせた服選びができるようになったと思います。たとえば、大学での講座に臨むときは生徒たちの世代のトレンドを考慮した服を選ぶ。すると「先生、今日の服カワイイ!」と生徒との距離が縮まり、「さすが、トレンドを取り入れるのが早い!」と生徒たちに一目置かれるようにもなります。
失敗談で言えば、ほかにもこんなケースが。気に入って購入したパンツを着て会議に臨んだときのことです。長時間の会議が終わって立ち上がったとき、パンツの後ろがシワシワになってとても恥ずかしい思いをしました。シワになりやすい素材だということに気づいていなかったのです。素材面で言えば、まだあります。購入して初めてのシーズンが終わりクリーニングから帰ってきた服は、もう着る気にならないくらい傷んでいたのです。クリーニングに向かない服だったのですね。機能面で服に裏切られた経験は、多々あります。いえ、服に罪はありません。服選びの際には素材にも気をつければいいのですから。いい勉強になりました。
失敗体験から服選びのとき気をつけるようになった点はもうひとつ、後ろ姿です。昔、他人から「今日の服はお尻がパツパツですね」と指摘され、恥ずかしい思いをしたことが。以来、クローゼットの近くと玄関先に大きな姿見を置いて、二度三度と全身だけでなく後ろ姿もチェックしています。
過去の失敗体験をいくつか披露しましたが、これらは私の大切な財産でもあります。失敗を重ねることは何よりいい学習効果を生みます。その積み重ねが、ファッションのセンサーを磨いてくれるのです。ファッション雑誌をたくさんチェックしたり、カラー・コーディネーションを学ぶという勉強もいいですが失敗を恐れずに冒険して、ときには失敗することも大切な勉強ということを意識してみてください。