無彩色の黒は、無個性の色。

就活中の若者はひと目でそれと分かる。とくに女子は分かりやすい。理由はほぼ全員が黒の定番スーツを着ているからである。就職指導のマニュアルにも、そう書かれている場合もあるだろう。ただ、ファッション・コミュニケーションのルールからすると「無難な黒のスーツ」は、いちばん難しいアイテムともいえるのである。
 「黒」とひと言でいっても生地や染めかたによって実にさまざまな色合いがあるのだ。漆黒の黒もあれば、墨色のような黒、少しぼやけたような黒もある。黒のスーツを着た人が並んだとき上質のスーツか否かが分かりやすいのも、黒のスーツである。
 第3章でも述べたが心理学的に黒は何か隠したいときに使う色である。就職活動という場においては初対面の相手に長所・魅力をアピールしなければならない場で「隠ぺいの黒」を着ることは避けたほうがいいというのが私の持論である。企業の係員に「どこか、わかりにくい人だ」という印象を与えてしまいかねない。
 ただ「黒」を着るのは避けられないとすれば、上等の黒を着るべきであろう。就活は人生における大切な儀式であり、妥協する必要はない。就活という勝負に勝とうと思ったら、それなりの勝負服、いや「戦闘服」を着るべきだ。

 面接は、つねに一度きりの真剣勝負で与えられる時間はごく僅かだ。瞬間で相手に好印象を与えられなければ、次は無い。そのために大事なのは「3S」で「清潔・清楚・作法(マナー)」であることを覚えておいて欲しい。

あなた自身もプレゼンテーションのツールのひとつ

知り合いの広告代理店勤務の女性が次のようなことを言っていた。
「最近の女子は、プレゼンテーションのとき、いつも黒スーツのような気がする。それって、いかがなものか」。
就職活動でも黒スーツ、プレゼンテーションでも黒スーツ……。黒スーツはワーキングウーマンの免罪符になっているようだ。若い女性ほど、黒色に対する何かしらの信頼があるように見受けられる。ちょっとした会合に出るときにも黒のコーディネートが多い。若い女性どうしの集まりであるなら黒を着ていけばおしゃれに見えるということもあるのだろう。しかし、日本人でほんとうに黒が似あう人は意外に少ないことはあまり知られていないようだ。パーソナルカラーでいえば、ウインタータイプの人。このタイプなら黒でもじぶん自身の存在感が消えることは少ないはずである。だが、ほかのカラ―タイプ(スプリング、サマー、オータム)の人の場合は印象操作が難しくなる。
 プレゼンテーションのファッションのポイントは、頭を使うことである。プレゼンの内容を考えたうえでファッションを選択する必要がある。たとえば、私の場合、ファッションに関するプレゼンがほとんどなのでプレゼン内容に合わせた服を着用する。そうすれば、プレゼン中に「たとえば、今日、私が着ている服のような……」と話題にできる。プレゼンに臨むときはじぶんのファッションもビジネスツールのひとつとして考える。
 加えてこだわりの小物を持つのも有効である。何かひとつ、会議の席で身のまわりにじぶんらしさを映す小物を置く。私の場合はオレンジ色の小物にしている。オレンジ色のペンケース・名刺入れ・眼鏡ケースなどである。理由は、オレンジは私のマインドカラ―であるからだ。オレンジを持つことで私もパワーが得られ、相手に与える印象操作もしやすくなる。じぶんのマインドカラ―の小物をひとつ、用意することをお勧めする。ファイルやペンなどのステーショナリーグッズ、書類を出すビジネス用のバッグ、時計……。プレゼン中などに仕事相手が見るともなしに視界に入れているようにする。それだけでも、相手の無意識にあなたという人間のちょっとした特徴が刷り込まれているのだ。
 全体のトータルコーディネートとしては5色以上は使わないという配色のルールを守る。眼鏡やアクセサリーなどは、ゴールドやシルバーなどのメタル色を揃えておく。

 基本、じぶん自身もプレゼンテーションの一部であり、その場に存在する全てがコミュニケーションツールになることを忘れないでおこう。