「永遠の妖精」として世代を問わず人気のオードリー・ヘップバーン。彼女がコンプレックスをバネに魅力を開花させたエピソードがあります。オードリーはじぶんの高すぎる鼻から人々の視線をそらすためにメイクを研究し、太いキリッとした眉や濃いアイラインを引くことで目元を目立たせるようにした結果、独特の美しさを作り出すことに成功したと言われています。
インターネット上で女性の体型に関する悩みについてのアンケート結果をみると、多くの調査結果で8〜9割の女性が何らかの悩みを抱えているという結果が出ています。そして、現在もしくは過去にダイエット経験があるとする人もアンケート対象者の半数以上であることが多い。
厚生労働省が全国レベルで実施している「国民健康・栄養調査」の平成25年度を見ると、肥満度(BMI)が「ふつう」の範囲にあてはまる人は男女とも、どの年代でも約6割を超えとなりました。一方、女性のデータを細かく見てみると「やせ」の範囲にいる女性が20代では21.5%、30代では17.6%、40代では11.0%でした。つまり、女性全体では7〜8割の人が「やせ〜普通」の体型になるわけです。このデータだけを見ると、体型に悩みを持つ人は全体の2割弱では? と思われる数字と言えます。にも関わらず、巷には「ダイエット」情報があふれています。テレビの情報番組はもちろん、女性誌、インターネットでも次から次へと新しいダイエット方法が紹介されています。それは、世の多くの女性が痩せるための情報を求めているからに他なりません。
※BMI(Body Mass Index):BMI指数=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
「やせ」はBMI指数18.5kg/㎡、「ふつう」はBMI指数18.5kg/㎡〜25kg/㎡、「肥満」はBMI指数25kg/㎡以上と定義。
同じく厚生労働省の平成17年度の国民健康・栄養調査をみてみます。「食生活についての改善意識(項目別)」の「やせすぎや太り過ぎでない体重を維持する」(第70表の12)ことについての意識調査結果を見ると、「改善したい」と考える女性は10代では53.2%、20代では54.3%、30代では53.8%でした。同じ設問で「すでにできている」と答えた女性は10代で40.3%、20代で40.4%、30代で43.0%。調査年度は違いますが、先の「やせ〜ふつう体型」の人の割合と照らし合わせると「肥満」体型ではないにも関わらず、体型を維持するための食事の改善を望んでいる人の割合が多いことが読み取れる結果ではないでしょうか。
なぜ、女性はこのように「痩せたい」と思ってしまうのか。鷲田清一氏の著書に「ちぐはぐな身体」(ちくま文庫)で次のような考察があります。(以下、抜粋)
ニーチェという哲学者は、「各人にとってはじぶん自身がいちばん遠い」と言っているけれど、それをまねて、ぼくらにとってはじぶんの身体がいちばん遠い、と言えるのではないだろうか。じぶんの身体は、その表面のほんの一部分しか見えないし、身体の内部ともなればこれは全然見えない。〜中略〜 それにしても身体がこんなに遠いとは、考えてみればおそろしいことだ。そしてそれをあつかいあぐねているうちにも、身体は勝手に変化していく。
私たち、とくに女性はじぶんの身体について、どこまで分かっているのでしょうか。厚生労働省のデータを見ても、いまのじぶんの身体に満足していない人の多さがうかがえます。しかし、果たしてじぶんの身体に満足していない人のうち、本当に身体を改善する必要がある人は多くないのが現実ではないでしょうか。鷲田清一氏は「ちぐはぐな身体」で次のようにも述べています。
考えてみるに、どうもおそらく、身体を意識するよりも先に、身体のモデルがあるらしい。ファッションにおいてイニシアティブをもっているのは、身体ではなくモデルのようだ。もしじぶんの身体がモデルどおりであれば、だれも痛い目、しんどい目をして努力する必要はない。みんなモデルを想定して、それを基準にしてじぶんの身体を意識するから、じぶんの身体は規格を外れたものとして意識されることになる。
このように女性から羨望の眼差しで見られるモデルやセレブたちが生まれながらの美しいボディで人生を謳歌しているのかと言うと、そうでもないようです。いつも奇抜な衣裳やメイクで話題になるレディ・ガガをはじめ、マライヤ・キャリー、クリスティーナ・アギレラなど多くのアーティストたちは太ったり痩せたりを繰り返しているように思います。人気絶頂の頃に比べてぽっちゃりしたブリトニー・スピアーズもダイエットには苦労しているようで、自宅に数千万円かけて専用のトレーニングジムを作ったとか。
健康的にダイエットができれば問題はないのですが、一方で、体型維持を追求し過ぎた結果の悲劇も起こっています。2006年にはブラジルのモデル、アナ・カロリナ・レストンが21才という若さで亡くなっています。彼女の死亡要因は拒食症だと言われており、モデル業を始めたことが拒食症の引き金になったと考えられ、172cmの身長に対し、体重は40kgだったそうです。その後、ウルグアイの22才のモデルとその妹で18才のモデルが相次いで栄養失調が原因で死亡するなど、モデルの過酷な現実が世間の注目を集めるようになりました。そして、2015年4月、フランスでは痩せ過ぎているモデルの雇用を禁止する法案が可決。また、ミラノコレクションが開催されるイタリアではBMI18以下のモデルの出演が禁止されているとか。
モード王国・フランスには拒食症の患者がおよそ4万人もいると言われています。拒食症とは「神経性食欲不振症」という心の病気。太ることへの恐怖が食べることへの恐怖につながり、強迫観念となって、やがて食べようと思っても食べられなくなることも。
じぶんにプレッシャーをかけて無理なダイエットをせずとも、着こなしや洋服選びで美ボディに見せるノウハウをご紹介するのがこの章の目的です。社会活動をするとき、人は裸ではありません。必ず洋服を着ています。言葉は悪いですが、洋服のデザインや着こなしかたで上手にごまかせばダイエットで1〜2kg痩せたような効果も期待できるのです。痩せ効果だけではなく、顔を小さく見せたり、足を長く見せたりすることも不可能ではありません。
では、まず、じぶんの体型を客観的にチェックすることから始めましょう。全身鏡にじぶんを映していろいろな角度から見るもよし。家族や友人に写真を撮ってもらうのもよし。以下の項目についてのデータを集めてみてください。
■肩幅は広い?狭い?
■胸は大きい?小さい?
■首は長め?短め?
■腕は太い?細い?
■胴は短い?長い?
■ウエストは細い?それともズン胴?
■ヒップは大きめ?小さめ?
■太ももは太め?細め?
■足は長いほう? 標準? 短め?
■顔は小さめ? ふつう・
■顔の輪郭はどんな形?
自身の体型を客観的にとらえることができましたか? 次の段落からは人間の心理的な錯覚を利用することで体型を実際よりも細くみせたり、足を長くみせたりするテクニックを紹介していきます。実は、人間の目というのは不正確で、実際のモノのカタチを見ていないことも多いと分かれば、着こなしテクニックの効果にも納得していただけるでしょう。