ファッションの3S+S

前述したビジネス用のワードローブ20着を有効に活用するために大切なキーワードは「3S」。それは「整理・整頓・清潔」です。まず、整理ですが、シーズンものでいま着ている服はできれば見えるスペースに並べておくのがベストです。ショップの陳列などを参考にするといいでしょう。20着ほどの服であればハンガーラックひとつに収納は可能。収納のコツは、コート・ジャケット・シャツ・ボトムスのようにアイテム(服の種類)ごとまとめて並べます。順番は、左からシャツなどの軽いトップスそしてスカート、パンツ、ジャケット、ドレス、そして一番右がコートです。それぞれのアイテムは、薄い色から濃い色の順に並べておくとコーディネートを決めるときに便利です。いま自分が持っているワードローブの色や形などが短時間で見渡せるのでコーディネートのイメージづくりがしやすくなります。また、タンスの隅で忘れ去られるアイテムが無くなり、コーディネートの幅も広がります。
 セーターやカットソーなどのトップスをハンガーにかけずにたたんで収納する場合、丸首なのかVネックなのかがわかるように首元を見せてたたみます。こちらも薄い色から濃い色へとグラデーションで並べておく。手持ちのアイテムを毎日見ることで、新たに服を購入する際に似たようなデザイン・色のものを買う失敗も防げます。
 靴やバッグなど小物も見える収納が基本。靴はヒールの高さや形が分かるようにしましょう。最近は靴箱にイラストが印刷されているケースもあるので、その場合はイラストが見えるように箱で収納します。イラストが入っていない場合、文字で特徴を書くか写真を撮って貼付けておくなどの方法もあります。
 不要なアイテムをそのまま置いておかないよう、定期的にクローゼットを見直すことも大切です。衣替えの時期やセールで買物をする前の習慣にするといいでしょう。着なくなった服はもちろん、「いつか必要になるだろう」「いつか痩せたら着よう」など「いつか…」という冠がつく服は、基本的に不要品です。不要品できるだけ早く手放すようにしましょう。物を溜めこんでしまう人は「もったいない」「必要になるかもしれない」「もう手に入らないかもしれない」という心理から物を捨てることに苦痛や不安を感じてしまうのです。そして、溜まった物を捨てられないことや片付けられないことに関してもストレスを感じるという悪循環に陥りやすいのです。住まいがいわゆる「ゴミ屋敷」になるまで異常に物を溜めこみすぎる性癖については、近年一種の精神疾患として認定されるようになりました。これは強迫性疾患で「溜めこみ障害」と呼ばれます。「溜めこみ障害」の人は自覚がないため、治療が難しいとも言われています。「溜めこみ障害」に対処する方法は、物を捨てる不安に慣れることだそうです。はじめは物を捨てることにストレスを感じていてもやがて慣れていきます。物を捨てることに罪悪感を感じるのであれば、リサイクルやネットオークションで処分する、だれか人に譲ってもいいでしょう。物が多すぎない、すっきりとした開放的な住まいがストレスから解放してくれるはずです。
 次に「整頓」ですが前述のルールを守りつつ、ワードローブ20着の保守・点検をしましょう。保守は服が痛まないように保管すること。ジャケットなどは型くずれがしないようにボタンを締めてきちんとハンガーにかける。冬物のウールジャケットなどは着た後にブラシをかけておきましょう。はずれかかったボタンがないか、裾の折り返しのラインがきちんとしているかなどの確認は脱いだときに。着る前は時間がないことが多いので。
 靴も帰宅後、靴用のブラシを掛け、クリーナーで汚れを拭き取ります。そして、履く前にツヤ出しクリームなど栄養のあるクリームをサッと塗っておきます。栄養クリームを塗った靴はすぐに靴箱に片付けるとカビが生えることがあります。必ず、よく乾かすか収納時はクリーなだけにして履く前に塗るかをお勧めします。皮革製品の雨染みや色褪せはクリーニング店や専門店で修理できる場合もあります。雨染み・汚れ対策に購入後、防水スプレーで保護しておくのも有効な方法でしょう。
 「清潔」は、身だしなみの基本です。最近はほとんどの洋服が自宅で洗濯できるので、お手入れも簡単です。洗濯ができないウールのコートやジャケットのほか、着るたびに洗濯をしない大物の場合、着た後はすぐに他の物と一緒に収納しないことです。汗や湿気、ニオイなどが他の服に移ってしまうので、しばらくは通気のいい場所にかけておきましょう。
 衣替えをするとき、クリーニングに出した服の保管ですが、クリーニング店から戻ってきた服をそのまましまうのではなく、必ず袋を取って中身を確認する。変な折りシワがついていないか、汚れがキチンと落とせているかなどを確認します。早期に発見するとクリーニングをやり直してももらえます。気づくのが半年後になるとリカバリーできないこともあります。
 最後のプラスαの「S」は「サスティナブル(sustainable)」です。意味は「持続可能であるさま」、地球環境にやさしい社会発展を目指そうという理念を指すワードです。1987年の「環境と開発に関する世界委員会」の報告書で「持続可能な開発(サスティナブル・デベロップメント)とは、次世代の人々のニーズを損なうことなく、現在のニーズを満たすこと」という文言が使われたことにより、環境に関する用語として広まったそうです。「エコロジー」にはじまり、「ロハス」「オーガニック」など近年、自然との調和・共生というテーマが社会に広く浸透しています。そして、ファッションの世界でも「サスティナブル・ファッション」が市民権を得はじめているのです。「サスティナブル・ファッション」には次のようなポリシーがあります。
・素材の染料は環境や生産労働者の健康を損なっていない。
・動物を殺した素材ではない。
・生産工場の労働者への賃金は適切である。また、工場で幼い子どもたちや移民を劣悪な条件で働かせていない。
・地元のものを使って生産されている。
・製品回収システムなどのリサイクル意識がある。
 海外ではキャサリン・ハムネットやステラ・マッカートニー、ブルーノ・ピータースらがサスティナブル・ファッションを発信しています。ファストファッションのH&Mから、ハイブランドのルイ・ヴィトン、ボッテガ・ヴェネタ、クロエ、ブルガリなど錚々たるブランドもサスティナブルへの取り組みをはじめています。

 サスティナブルな考え方が広まった背景には、近年の気候変動や自然災害の多発、生態系の変化など地球規模でのさまざまな問題があると言われています。水や石油、動物や植物などは有限であると気づいた人々が利便性を追求した現代社会を見直し、再生利用の方向へのシフトチェンジを訴え始めています。そこに新たなビジネスチャンスを見いだした企業もサスティナブル・ディベロップメントに取り組みだしているのです。先人から「もったいない」精神を受け継ぐ私たち日本人は、自然にサスティナブル・ライフへと移行していけるのではないでしょうか。サスティナブルの実践として、この章の「ワードローブ20着」への取り組みを始めてみてください。