「胸育」は女性のたしなみ

おとなの仲間入りを実感するステップのひとつが、ブラジャーを付け始めることです。体格によってブラジャーデビューの年齢はさまざまですが、小学校高学年ごろが一般的。ある研究によると「必要な時期にブラジャーをつけていないと胸(乳頭)が擦れて、痛みや不快感から授業への集中力が低下し、自由に運動する妨げになります。また、胸が目立つことを気にするあまり、姿勢を丸めてしまう子どもがいる」(ワコール「ママのための初ブラ講座」より抜粋)そうです。大手下着メーカーのワコールによると、バストが成長をはじめるのは初経の1年以上前で、初経の前後1年間でバスト全体がふくらみ、バストの下側のラインも横に広がるとか。初経の1年前のバストがふくらみ始めるころからのブラの装着を推奨しているワコールでは、ジュニア用のブラジャーを3タイプ開発。時期に合わせたブラジャー選びの大切さを唱えています。
 最近、マスメディアやブラジャーのカタログなどで目にすることが増えてきたワードに「育乳」があります。意味は文字の通り、「バストを育てること」。美しいバストづくりのための下着や、女性ホルモンの分泌促進のためのサプリメントが注目されています。昼間は「寄せ、上げて形を整える」ブラジャーをつけ、夜はバストの肉が横に流れないような「ナイトブラ」をつけるのが現代の女性の常識になりつつあるようです。
 日本の下着の特徴は、高い機能性。下着選びをきちんとすれば望んだ通りのバストラインが手に入ると言っても過言ではないでしょう。そんなメイド・イン・ジャパンの下着は欧米の女性からすれば、異文化の象徴のようです。もともと欧米では、下着によってバストや体のラインを補正するという考え方はありません。下着は、服を脱いだときのじぶんを美しく見せるためのもの、というのが欧米の概念。フランス製のランジェリーは繊細なレースを使っているのが特徴で、ワイヤー入りなど機能的なものは多くありません。
 ブラジャーの原型なるものが生まれたのはアメリカと言われていますが、アメリカ人女性もブラジャーに対するこだわりはあまりないようです。ここ一番!というシチューションでは谷間を作るブラなどが付けられているようですが、ふだん着のときにはノーブラという人も少なくないという印象です。ただし、アメリカのドラマや映画に出てくる女性たちは機能的なブラジャーらしきものを身につけている場合が多いので、職種や地位・立場などによって下着に対する考え方は変わってくるのかもしれません。そして、ここ数年、日本製の機能的なブラジャーはアメリカだけでなく、広く海外で人気を博しているので、海外の女性たちの考え方も変わってきているのです。
 さて、育乳に話しを戻してもう少し掘り下げてみましょう。ワコールのジュニアブラはノンワイヤーのスポーツブラから始まり、ジュニア用のワイヤー入りブラへ移行していくステップを紹介しています。ジュニア用のワイヤーブラはバスト周辺のリンパ腺を刺激しすぎないよう、大人向けよりもワイヤーの幅が広く調整されています。胸のスムーズな発育を妨げないようにと考えられています。
 ジュニアだけでなく、年齢に合わせたブラジャーの選択はアンチエイジングの面から考えても大切です。バストは加齢によって下垂していきます。筋肉がないバストは乳腺や脂肪とそれを支える結合組織・クーパーじん帯などで構成されています。加齢が進むにつれて乳腺より脂肪の割合が大きくなり、バスト全体が柔らかくなっていきます。また、バストを支えるクーパーじん帯や皮膚そのもののハリ・弾力が衰えることもあり、バストが重力に従って下垂していくのです。下垂はバストだけではなく、ヒップやウエストまわりの脂肪にも起こります。体の変化に合わせつつ、きれいなボディラインをキープしていくうえでエイジングケアのための下着は重要です。ちなみにワコール「人間科学研究所」によると、「加齢によるバストのかたちの変化」には次の3つのことが言えるそうです。
①加齢で変化していく順序は全員同じ。
②20代から下垂は始まっている。
③いったん変化したら元には戻らない。
美しいバストをキープするためには、肌や髪のケアと同じくらいの労力が必要です。
 日本石鹸洗剤工業協会が「朝シャン」について調査したデータがあります。「毎日、朝に髪を洗う」と答えた20代女性は26%だったのに対し、20代男性は32%でした(調査対象:20代の有職男性・20代の有職女性、各100名。2001年調べ)。オリコンが行った自社のモニターによるアンケート結果では、「朝・夜2回入浴する」と答えた男性が12.8%だったそうです(調査対象:中・高校生〜40代男性500人、2007年調べ)。同じ調査で女性は6.0%だったことを考えると、最近の男性がいかに身だしなみに気をつけているかがうかがえます。入浴の際に下着をはきかえることが一般的だとすれば1日2回下着を変えている男性は意外に多そうです。
 私の持論としても、下着は1日2回着替えることを推奨します。たとえ、朝シャンしなくともナイトウエアから着替えるときには、日中のファッションに合った下着をセレクトするべきです。「透けて見えない色であるか」「下着のラインが見えていないかどうか」は基本。胸元のVゾーンが深い場合はそれに配慮したブラジャーを選ぶ。フィットネスジムに行く予定がある場合は、リンパ腺に影響がないノンワイヤーのブラやスポーツブラがお勧めです。
 服に合わせてブラジャーを選ぶ女性は多いのですがノーチェックなのがパンティやショーツ。とくに後ろ姿をおざなりにしている女性が少なくないと感じます。ところが、胸元のラインよりも他人から視されやすいのが、ヒップライン。人は対面したとき、視線の行方が相手から悟られやすいため、胸元を凝視することを避けがちです。その点、ヒップラインは見つめても相手からは悟られないため、視線が留まりやすくなります。くっきりとショーツラインが浮き出る着こなしをしていたら、相手に「身だしなみに気をつけない人だ」という印象を与えかねません。最近はビジネスシーンでパンツスーツを選ぶ女性が増えているので、ぜひ、ショーツラインのチェックは怠らないようにして欲しいものです。
 ビジネススーツで言えば、ジャケットとスカートのスーツを選択する際、足元に合わせるのは革靴になります。その際のストッキング選びも重要です。いまは素肌以上に肌を美しく見せるストッキングが豊富になりました。美しい足元は女性にとって強い武器になるので演出に工夫を凝らして損はありません。最近の若い女性はとてもメイクが上手になっているのですが、インナー選びはまだまだ発展途上のように見えます。下着もお化粧と同じです。きちんとしたインナーを身につけることは大人のたしなみなのです。

 夜、帰宅した際は、体を補正する機能性下着からリラックスできるタイプのものに変えるほうが身体にも、精神にもいいでしょう。最近では各メーカーが夜用の下着を開発・販売しているので入手も難しくありません。