女性が外出する際に必ず身につける下着はブラジャーとショーツ、人によってはガードル、ペティコートなどなど。現代女性はこれらの下着をいつから習慣的に身につけているのでしょう。第二次世界大戦まではまだ和装の女性が多かった日本。戦後、戦勝国であるアメリカ文化に席巻され、日本女性のふだん着も洋装へ。時を同じくして生まれたのが国産のブラパッドやブラジャーでした。もともと和装の着こなしは胸を抑えつけるのが基本。洋装の場合、バストラインを高くしてウエストを細くするシルエットが美しく見えるという点に着目してプラパッドを発明者した人物が、ワコール創業者と共に商品化をしたのが1949年のこと。この見込みは大当たりをし、ブラパッドは大ヒット。ブラパッドを装着しやすくするためにブラジャーも開発されました。このことからも女性は美しく服を着るために、いかに下着を重要に見ているかが分かります。
ワコールが女性にとっての下着の意味について調べたデータがあります。(※2007年 首都圏ならびに近畿圏に居住する18歳から59歳の女性個人を対象にしたウエブ調査)「下着全般に関する考え方」で1位は「自分の好みに合わない下着をつけると気分がよくない」(79.8%)、2位が「下着とは、見えなくてもこだわるべきものだと思う」(72.3%)でした。
「お気に入りの下着を着用するときの気分や態度」という質問には「ココロが引き締まる」(77.7%)、「女らしい気分になれる」(77.5%)、「いつもより輝いて見える」(75.7%)、「気合いが入る」(75.1%)、「安心感にひたれる」(74.6%)、「いいことがありそうが」(74.0%)などが上位に。ワコールではこれらの調査結果から、女性は下着の効能として「気合力」「オンナ力(おんなりょく)」「癒し力」「開運力」を期待していると分析しています。たしかに女性にとって下着とは、たんに服を美しく着るための機能性アイテムではなく心理的に大きな影響力を持った、言えばメンタルトレーニングツールともいえるしょう。
「お気に入りの下着」を着用するときの気分/ワコール「ココロス」FILE.03より
グラフ−9 「お気に入りの下着」を着用するときの気分や態度
(www.cocoros.jp/)
下着とメンタルとの密接な関係を表す例としてあげられるのが、スポーツ関係者のゲン担ぎ。元楽天監督の野村克也氏は勝った試合の後、負けるまでラッキーカラーのパンツを履き替えなかったというエピソードがあります。女子サッカー・なでしこジャパンで活躍したFWの丸山選手は大事な試合のときに身につける勝負下着があると語ったと、2011年のスポーツ紙で報じられています。記事によると青いTバックとピンクのスポーツブラの組み合わせで、青は日本代表のチームカラーでピンクはなでしこジャパンのイメージカラーというこだわりが。そしてTバックは「気合を入れるため」だったそうです。
第4章で触感について解説しましたが、日本人は肌でいろいろなことを感じ取る感性に昔から優れていたようです。「肌=こころ」という考え方も普通でした。医学博士である青木皐氏は著書「人体常在菌のはなし」(集英社文庫)で日本人と「肌」との関係性について次のように記述されています。「日本人には「肌」への独自の思い、独自の感覚があるようだ。その感覚は、次のようないい回しに見て取れる。「肌があわない」(気質・気立てが合わない)・「肌で感じる」(理論でなく、直接の経験で感じる)・「肌を許す」(気を許す。または、女が男にからだをまかせる)・「ひと肌脱ぐ」(ある事について力を尽す)・「職人肌・学者肌」(職人や学者に特有の気質)。…中略…「肌」は、「人体の表面」という枠を超えて、人の内面的なもの、人間関係における距離感を表わす大切な言葉として使われている。また、仕事や稽古事などで、「頭で考えるな。体で覚えろ。肌で感じろ」といういい方もされ、肌や身体の感覚が重視される考え方によく接する」。
「皮膚は第三の脳」と皮膚科学研究の傳田光洋(でんだみつひろ)氏は著書「第三の脳〜皮膚から考える命、こころ、世界」(朝日出版社)で述べています。その根拠としてある実験が紹介されています。頭部を切り取った脊髄だけのカエルを宙にぶらさげ、背中の一部に酸の刺激を与えたとき、カエルは「かゆいなぁ」とばかりに後ろ足で刺激を与えられた部分を掻いたそうです。脳が無くても皮膚に与えられた不快な刺激が認識できたとか。それほど、皮膚は優れた感覚機能なのですね。肌には微弱な電流が流れていて、それは気分や感情によって変化すると言われます。また、「セロトニン」「ドーパミン」「アドレナリン」など脳内物質の受容体があるとも。「セロトニン」は幸せ感、「ドーパミン」はやる気、「アドレリン」は活動的にしてくれる物質で、いずれも人をポジティブにしてくれる物質。肌と人のメンタルの深い関係が少し理解いただけたと思います。
肌とこころの密接な関係。日本人の感性は、昔からそれに気づいていました。このことからも大切な日の下着選びは、服選び以上に重要だということが理解していただけると思います。具体的な下着の選びかたと付け方については後でくわしく解説するとして、メンタルサポートのために私が提案したい点について、ひと言。それは「朝と晩でパンツを履き替えよう」ということです。まず、夜、入浴後に下着を替えるとは思いますが、夜用にはゴム部分が緩くて肌あたりが心地いい、リラックス効果が高いものに。素材は綿100%など天然素材をおすすめします。もちろん清潔であることが前提。「私は健康のために夜は下着はつけない」という考え方の人もいるでしょう。その場合は、清潔さを保つためにシーツや布団カバーなどは毎日洗濯してください。その手間を考えると下着を毎日替えるほうが手軽だと思います。そして、朝は洋服に合わせて下着をコーディネートして欲しいのです。洋服に響かない色や形であることはもちろん、その日のスケジュールに合わせてラッキーカラーを身につけるのもいいでしょう。デートの予定があればお気に入りのデザインの下着に。他人に見せる・見せないに関わらず、ハッピーな気持ちにしてくれるはずです。最近、アパレル企業では下着のことを「インティメート・ウエア」と表現することが多くなっていきました。「インティメート(intimate)」とは「親密な」「居心地のよい」「打ち解けた」という意味。下着とのいい関係を育むことで気持ちのコントロールができるとしたら、それはステップアップにもつながるはず。いま一度、下着を見直してみませんか。