頭の中のクローゼットは満杯であるほど、いい

 ヒトが物を選択するときに、何を基準にしているのでしょう。じぶんにとって価値があるかどうかを基準にすることが多いとは思いますが、物の価値基準は相対的なものであり、時と場合によって変動する、とてもあやふやなものです。
 ファッションにおいて、若いうちはいろいろ冒険するのが怖くない傾向にあります。年齢を重ねるごとに社会的地位があがることもあり、無難なファッションを心がけるあまり、自分らしさをおさえ過ぎているファッションのヒトも少なくありません。何もアバンギャルドなファッションをする必要はありませんが、ときにはトレンドに目を向けるなど、新しいファッション・テイストを取り入れてみることも必要です。
 私は、かつて帽子メーカーで社内セミナーを半年ほどさせていただいたことがあります。勉強も兼ねて、そのとき毎月1つずつ帽子を新調しました。そして、じぶんに似合う帽子がどんなものか分かるようになり、それまでは食わず嫌いだった帽子がとても好きになったのです。私のクローゼットに帽子という新たなアイテムがプラスされることで、ファッションのキャパシティが広がりました。近頃は断捨離がブームでクローゼットの中身を減らすほうがいいという風潮になっていますが、頭の中のクローゼットは中身がいっぱいであるほうがいい。ファッションの経験において、ムダになることはひとつも無いのです。若気のいたりもおおいに結構。「あのときの、あのコーディネートは失敗だったな〜」と思っても失敗したことが分かっていれば、それはいい経験にひとつ。玉川大学脳科学研究所の松元健二教授のグループは、「自分で選んだ感覚=自己決定感」があると、失敗を成功のもとと捉え、やる気が高まり課題成績も向上する脳のしくみについて明らかにしています。ヒトが悪いことや失敗と捉える経験をしたとき、脳の「前頭前野腹内側部」の活動が低下するそうです。実験において、自己決定感があったヒトはミスをしたときもこの「前頭前野腹内側部」の活動の低下が見られなかったのです。このことから、じぶんで選んだ結果、失敗してもポジティブに捉えることができる脳内メカニズムがあることが示唆されるとあります。

 トーマス・エジソンの有名なエピソードがあります。電灯の発明の途中、フィラメントにふさわしい素材が見つかるまで約6000種類もの素材を試したそうです。ある記者が「これだけ失敗したのに続けるのですか?」と質問したときのエジソンの答えは「私は失敗したのではなく。フィラメントにふさわしくない素材を見つけただけです」だったといいます。ヒトは失敗したときに、恥ずかしさを感じたり、じぶんを責めたりしがちです。でも、エジソンのように180度考えかたを返れば、失敗は目標に到達するための1ステップに過ぎないのです。くじけない心が天才をつくり、偉業達成への力となるのです。