キーワードは「共感力」

 共感力という言葉をご存知でしょうか? デジタル大辞泉・第三版(小学館)によると「他人の考え・行動などにまったくそのとおりだと感ずること。同感」「他人の体験する感情を自分のもののように感じとること」とあります。共感力とは、一般的に共感する能力のこと。つまり、相手の思いを的確に汲み取った上で行動できる力であり、共感力のある行動によって相手から「この人はよく分かっている」と信頼を得られるため、ビジネスシーンはもとより社会生活において重要なスキルだと注目されています。
 ファッションにおいても共感力は密接な関係にあります。たとえば、学校の新年度、新しいクラスメイトと顔を合わせたとき、「この人、いい感じだな」「この人と仲よくなれそう」と感じられる人がいたとします。そのとき、人は何を基準に判断しているのか。ほとんどが相手の外見のはずです。つまり「仲良くなれそう」だと感じた人間のファッションに共感しているのです。
 アメリカの有名なイメージ・コンサルタントであるジョン・T・モロイ氏は、教師の服装が教室の生徒の学習能力に影響を与えるかどうかについて調査した結果を著書で紹介しています。中高生たちは「カジュアルなファッションの先生が親しみやすく、好感がもてる」と口では言っていたものの、実際に授業中に熱心な態度をとったのはコンサバティブな服装の教師に対してだったそうです。おもな理由は「コンサバティブな教師は採点が厳しいだろうと思い、マジメに授業を受けた」でした(ジョン・T・モロイ著「ミリオネーゼのファッション・ルール」(ディスカバー・トゥエンティワン)参照)。この結果をふまえて、教師が「コンサバティブな服装をしたほうが生徒に与える影響力が強いだろう」という選択をしたら、共感力という戦術を利用することになるわけです。
 女性は意識せずとも、ふだんからファッションに共感力を利用しています。それは、有名ブランドのアイテムを身につけること。エルメスのケリーバッグしかり、シャネル・スーツしかり、ロレックスの時計しかり……。ひと目でハイ・ブランドだと分かるアイテムを身につけることで、「リッチである」「ファッションにこだわりがある」などのメッセージを発信しています。このようにファッションは、イメージ戦略としては言葉よりも有効と言えるのです。

 ただ、たんにハイ・プランドのアイテムを身につけるだけではメッセージは一方通行になってしまう場合も。相手によって「リッチなことを自慢しているの?」と受け取られる可能性もあるからです。共感力をファッション・コミュニケーションのツールにしたい場合は、相手の好みに沿ったコーディネートを心がける必要があります。相手が好きなブランドのアイテムを身につける。きれいにネイルが施された手をしていると思ったら、次回はじぶんもサロンでネイルをしていく。帽子好きな人であれば、帽子をかぶっていく。など、相手に「あれ? 同じものに興味があるのかな? 話しが合うかも」と思ってもらうことでじぶんに関心を持ってもらえれば、次のステップに行きやすくなります。好感を持ってもらえる会話術としては、相手のしぐさや話すスピード、声のトーンなどを鏡のようにマネする「ミラーリング」の実践も効果的。より、相手をリラックスさせることができるので「この人と話すのは楽しいな」という雰囲気づくりに役立ちます。