第3章成功するためのファッション

●ビジネススーツは、“鎧”
  戦国時代、武将にとって鎧はさまざま意味を持っていたようです。もちろん一番の目的は身を守ることですが、合戦で命を落とすこともあり、そのまま死装束にもなるということから、武将の威厳や風格を表すことが大事であり、また、本人のこだわりや美意識も反映されていたそうです。そして、時代が進むにつれ、鎧兜のデザインを利用して心理戦で有利に立てるようにと考えた武将もいたようです。たてえば、徳川四天王として名を成した井伊家に伝わる鎧はすべて赤色。関ヶ原の合戦の様子を描いた屏風絵を見ると、大将から雑兵にいたるまで全員が真っ赤に身を包み、「井伊の赤鬼」と恐れられ、圧倒的な強さを誇っていたそうです。攻撃的な赤を戦場という極限状態で使うことで、相手に威圧感を与えることに成功したのではないでしょうか。ビジネスシーンで身につける仕事服も、いわば「鎧」。手中に納めたいと思っている成果を得るための戦術のひとつになり得ます。その日の仕事の目的や対面する相手のことを考えたうえで服を選んでいますか?。
 アメリカ・テキサス大学オースティン高校で経済学を教えるダニエル・ハマーメッシュ教授が7550人のビジネスパーソンを対象にした、収入に関するリサーチがあります。その結果によると、男性であれ女性であれ、魅力的な容姿だと思われた人のグループは平均的な容姿と思われたグループより生涯賃金が平均25万ドル多かったそうです。また、教授いわく、「じゃあ、美人であれば収入がアップする!」と、美容整形に頼っても効果は期待できないようだとのことです。鼻を高くするよりも、その人本来の長所を伸ばすようにしたほうがいい結果が期待できるとか。つまり、顔の造作で判断されるのではなく、その人全体から醸し出される雰囲気に人は心を動かされるといえるでしょう。「美人じゃないから、どうしようもない!」と嘆く必要はないわけです。要は、服装を含めて、いかに自分を魅力的にセルフ・プロデュースできるかどうか。
 ところが、「ミリオネーゼのファッションルール」(ジョン・T・モロイ著)というアメリカの服装コンサルタントが書いた本によると、キャリアウーマンの約7割もの人が服装によってキャリアアップのチャンスを逃していることになるそうです。意外な感じがしませんか? 大統領選では、各候補者はもとより事務次官にもコンサルタントがつくほどファッション心理に長けた国というイメージがあるアメリカでも、思ったほど服装で成功している人は少ないのかもしれません。映画「プラダを着た悪魔」の中でも、最初はダサかった新米女性アシスタントは、先輩の女性社員からケンモホロロの扱いをされています。ファッションが洗練されていくにつれ、上司や先輩から、やっと相手にしてもらえるというストーリーも、いかにもアメリカのビジネス界といった感じです。そのシチューションを実生活に置き換えて自分のファッション選びを見直すとキャリアアップのヒントになりそうなのですが……。
 
コラム「ラポール(信頼)の構築」
 カウンセリングのとき、話し手と聴き手との間に必要となる信頼のことを「ラポール(Rapport)」と呼びます。ラポールとはフランス語で「橋をかける」という意味。人と人の間に信頼という名の橋がかかれば、それがコミュニケーションの出発点になるはず。では、この信頼関係はどうしたら築けるのでしょうか。まず相手をよく観察する。そして相手と自分の共通点を見つけることが早道になります。というのも、人は自分と似ている人には安心感を抱き、それが好感へとつながるからです。共通点が見つからない場合の有効な手段に「ミラーリング」があります。これは鏡のように相手の動作などを模写すること。座っている姿勢や身振り手振りなどをマネするという方法です。ひとつ注意してほしいことは、あまり大げさにマネしないこと。明らかにマネをしていることが相手に悟られてしまうと、「バカにされているのか?」と、逆効果になりかねません。あくまで、相手に「私もいま、あなたと同じ気持ち(状態)です」ということを伝えるためのノウハウなので、心地いい程度に、さりげなく、がコツ。そして、相手と同じような服装をすることもラポール構築につながります。ちなみに、会話術でのコツは相手に必ず「イエス」と言わせる質問をいくつか続けるという方法があります。イエスを続けて言っているうちに、「自分のことをよく分かっていてくれる」という気持ちを相手に抱かせることができるのです。ぜひ、一度、試してみてください。