服によって形成される社会的人格

服を表す言葉はいろいろあります。
・「身につけるもの」では衣服、制服、私服、平服、洋服、和服。
・「体や心に受けいれる」では服用、服膺、頓服、内服、着服。
・「つき従う」では服従、畏服、敬服、感服、克服、征服。
・「つとめにつく」では服務、服喪、服役。
藤堂明保氏の「漢字語学辞典」によると、「服」は「舟+反」。舟べりは浸水しないよう板が隙間無く打ち付けられています。そして「反」とは「人+又(手の形を表す)」の変形。
「服」は、人を手で引き寄せ、そばにぴったりとくっつけた形。そこから転じて、人のそばにつく=服従の意味ももつようになったようです。
 ナポレオンの有名な名言のひとつは、
 「人はまとった制服のしもべとなる」。
人は着ているものどおりの人間になるという意味。実際、ナポレオンは自分が目をかけた部下には少し上の階級の制服を与えて人材教育をしたそうです。古来より、服には人を動かす効果があるという考えかたが存在していたわけですね。
 心理学で有名な「マズローの法則」または「マズローの欲求5段階説」。
人間の欲求は5つの段階からなり、生きるうえで重要な要素からピラミッド状の階層をなしているというもの。最下層には「生理的欲求」があり、食欲・睡眠欲・性欲などがあげられます。
ひとつ上の階層は「安全の欲求」で住居・衣服・貯金など。次が「社会的欲求」で友情・協同・人間関係。さらに上が「自我の欲求」で他人からの尊敬・評価・昇進。最上層が「自己実現の欲求」で潜在的能力を最大限に発揮して思うがままに動かす。
 低下層の欲求が満たされたとき、人はさらに上の階層の欲求が満たされることを望む……という人間心理を説明した理論です。
 このマズローの法則を人間と衣服の歴史に置き換えてみてはどうでしょう。人間にとって本能的な欲求が満たされたとき、まず「寒さ・暑さ」などから身を守るために何かを身にまとうようになった。その後、自分がどの地域に属しているか、どんな仕事をしているかなどの区別のために服を着用。さらに、シャーマンや支配者たちなどが社会的な階級を示すために、豪華絢爛な服を着るようになった。また、軍服などは人々から尊敬を集める象徴的な意味をもつ……。こんな流れを見ていると、服は人間の欲求に従って進化してきたようにも思えます。

 そうであれば、現代人は潜在的能力が最大限に発揮できるような服を求めている……と、いえるのではないでしょうか。ひとりひとりの能力は十人十色。他人と同じような服を着ていては、あなたの現実は何も変化しないでのは?