第9章
ミニマルに生きると、すべてが身軽になる!
●「持たない主義」を選択した若者たち
時代の変化に伴い、人々の価値観はめまぐるしく変わっていきます。時代研究のひとつとして、私たちがよく耳にするのが、世代論。例として、過去の代表的な世代をご紹介します。1940年代中頃以降生まれの「団塊の世代」、1960年ごろ以降の「新人類世代」などは耳にしたことがあるでしょう。1965年ごろ以降は「バブル世代」と呼ばれています。短い周期で5年前後、長くて10年前後でくくられ、それぞれにネーミングが。その時代を端的に捉えたものである世代の名前を見ると、当時の時代背景がなんとなくイメージできます。
1980年ごろから1988年ごろまでに生まれた人が属する世代の名称はというと、「ミニマル(ミニマム)ライフ世代」だそうです。「ゆとり世代・さとり世代」のひとつ前の世代を指すのですが、少しマイナーな名称かもしれません。
【主な世代の名称とその時期】
1947〜1949年 団塊の世代
1950〜1964年 しらけ世代
1961〜1970年 新人類
1965〜1969年 バブル世代
1970〜1983年 氷河期世代・失われた世代
1971〜1983年 団塊ジュニア
1980〜1988年 ミニマルライフ世代
1987〜2004年 ゆとり世代・さとり世代
「ミニマルライフ世代」が生まれたのは、昭和末期(※昭和は1989年1月7日まで)。思春期にバブル崩壊、阪神淡路大震災、アメリカ同時多発テロなどを体験したことでリスクを避け、安定志向であるという点が特徴とか。なるべく消費を抑えて将来に備える意識が高い傾向にもあるそうです。確かに彼らが育った時代背景を見ると、物の価値がひと晩でゼロになることもあり、日常はいつ崩れるか分からないということなどを体感したはずです。
一方、少し前のバブル時代は、この世の春を謳歌していた感があります。ブランドブームなども合わさり、高いブランド品を躊躇なく手にしている人も多く、また土地が高騰しているにもかかわらずマイホームを手にすることが当たり前だった時代。それが終わりを告げる時が来るとは、誰も思っていなかったのではないでしょうか。そして迎えたバブルの終焉が1991年ごろから1993年。追い打ちをかけるように1995年に阪神淡路大震災を目の当たりにしたのです。同じ年の3月には地下鉄サリン事件という未曾有のテロ事件が。豊かで平和だったはずの日本を根底から揺るがす出来事が矢継ぎ早に起こったのですから、人々の価値観が大きく変わったのも無理はありません。
昭和末期に生まれた「ミニマルライフ世代」は、今やアラサー。世の消費を、そしてトレンドを牽引する層である彼らの考え方が昨今の世相にも反映されてきているように思えます。たとえば、いまどきの若者たちを語るうえで、よく耳にする言葉が「⚪︎⚪︎離れ」。「車離れ」「飲酒・飲み会離れ」「野球離れ」「ブランド離れ」……。かつての若者たちの趣味・嗜好の定番から、ことごとく距離を置くようになったと言われるのが、いまの若者たち。市場のデータを見ても、年々、車の生産台数や国内の販売台数は減少し、野球のテレビ中継の視聴率は下がり、ビールや発泡酒の売り上げも伸び悩んでいるのが現状であり、その要因が若者の購買欲の低下とも言われています。
確かに、かつての若者たちが当たり前のように手にしていたアイテムに対し、いまの若者は食指を動かされないように思えます。そのことからも「経済大国日本」は、ひとつの転換期を迎えていると感じざるを得ません。
戦後、高度経済成長期をがむしゃらに突っ走り、バブルという経済のピークを迎えたのち、バブル崩壊を経て物質主義からの変換を体験した、日本。これからは、より精神的に成熟した社会を築くべく、新しい1歩を踏み出しているのではないでしょうか。そして、そのシンボル的存在が、「ミニマルライフ世代」が牽引する「ミニマルライフ」なのかもしれません。この章では、「ミニマルライフ」について考察していきたいと思います。