美人の条件は目鼻立ちだけではありません

美人とは相対的なものであり、人の価値観や時代によって変化している、とても流動的な定義です。たとえば、平安時代の美人は「豊かな長い髪・色白の肌・ふくよかな体つき・しもぶくれ気味の輪郭・大顔・引目と呼ばれる細い眼」などが条件であったというのが通説。現代と共通するのは、「色白の肌」くらいでしょうか。当時は食べ物が豊かではなかったため、太っていることが豊かさの象徴でもあったと言われており「ふくよかな女性=お嬢様」が、美人の条件に加えられていたとか。

戦国時代の代表的な美人のひとりに織田信長の妹であるお市の方がいます。お市の方の肖像画を見ると、長い黒髪に白い肌、細い眼などは平安時代と変わりありませんが、顔は細面で体型もふくよかではなくなっています。乱世の時代には凛として芯の強さを感じさせる女性が美しいとされていたように思えます。

江戸時代の美人は「色白・きめ細かな肌・細面・ちょぼ口・涼しげな目元・筋が通った鼻・富士額」が条件だったようです。当時のアイドル的存在だったのが笠森お仙。「鍵屋」という茶店の看板娘で浮世絵師・鈴木春信のモデルになったことで人気となり、お仙グッズまで販売されるほどだったとか。鈴木春信の浮世絵を見ると、確かに色白・細面で鼻筋が通っており、涼しげな目元をしているお仙が描かれています。現代の基準からしても美人と言えそうです。井原西鶴の作品に「低い鼻を高くしてほしいと神社で無理な願いことをする」という記述があり、このころから高い鼻が美人の基準として定着したようです。

明治時代になると「ぱっちりとした眼・顔は長め・高い鼻・色白」などが美人の条件として定着。西洋文化の影響を受け、洋装やパーマネントや断髪などのヘアスタイルも流行したことにより、西洋的な顔立ちを美人と感じるようになっていったのでしょうか。日本初とされる美人コンテストからもそのことがうかがえます。1908年に新聞社が「日本美人写真募集」というキャンペーンを開催し、記録に残るものではこれが全国規模で開催された初めての美人コンテストだそう。優勝したのは末弘ヒロ子さんという16才の女学生。このコンテストはアメリカの新聞「シカゴ・トリビューン紙」が企画した「ミスワールドコンテスト」に参加するためのもので、アメリカやイギリスなど日本を含む6カ国の代表から世界一の美女を決めることになっていたとか。末弘さんの写真は「シカゴ・トリビューン紙」に掲載されたそうですが、何位になったのかは残念ながら不明。ただ、おそらくは世界の美人と並んで見劣りがしないはっきりとした顔立ちである末弘さんだからこそ、日本で一位に選ばれたのであろうと推察できます。このころの美人の定義が、ほぼ現代にまで継承されているのではないでしょうか。

コニカミノルタの「魅力的な笑顔に表れる幾何学的特徴」によると、両眼角(眼の端)をつないだ直線とその両顔角から垂直に降ろした直線と口角(口の端)をつないだ直線によって構成される矩形(くけい)のアスペクト比が、黄金分割の比率(1:1.1618)の近似値になることが分かったそうです。ちなみに魅力のない無表情のアスペクト比の平均値は1:1.56だったとか。この黄金比は自然界ではもちろん、人間が作る建築物や肖像画などにも適応した数字で、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画「モナリザ」にもこの黄金比を見ることができます。
顎顔面外科学会のスティーブンR.マーコート博士が黄金比率を利用して考案したのが「美のマスク」。
往年の名女優オードリー・ヘップバーンの顔は、このマスクのバランスに近いそうです。
マスク
©MBA−RF Mask

「美のマスク」 ※上が女性、下が男性

心理学で、人は左右対称の顔を美しいと感じるとしています。左右対称の顔は健康であり、免疫的にも強いことを示していることになるからだとか。「物を噛むときは左右バランスよく使う」など、ちょっとした生活習慣で左右対称の顔に近づけることはできます。また、女性であればメイクでバランスを整えることも可能でしょう。そして、メイクで鏡を見るときに「私は美人だ」「私は日に日に美しくなっている」など、自己暗示にかけてみることも心理学的には効果があります。ただし、猜疑心を持ったまま実行してもあまり効果は望めません。ポジティブな気持ちで取り組むことが重要です。

世の中には「雰囲気美人」という言葉があります。顔の造作は整っていないのに美人オーラが出せる人がいます。もし身近に雰囲気美人だと思える人がいれば、まずよく観察してみてください。おそらく、その女性は自分のスタイルやファッションセンス、ビジネスシーンでの有能さなど1点以上、自分で自信が持てる要素がある人だと思います。

上質な服やハイブランドの服などは着る人を美しく演出してくれる「美人になれる服」が多いので、試してみるのもいいでしょう。ただし、身体に合ったサイズ感が大切なので、必ず試着をし、場合によってはお直しを利用するなどして美しいシルエットで着ることが大切です。

上質の服でサイズも合っているはずなのに袖を通してみると、あまり美しく見えない……という場合、姿勢が悪くなっているかもしれません。パリコレなど一流のファッションショーのランウェイを歩くモデルが服を美しく見せられるのは、歩きかたであり、姿勢です。「私の姿勢は悪くない」と思っている人も多いと思いますが、次のようなヨガのポーズを試してみてください。

①  膝を曲げて両足の内股を隙間なくつけたまま、足を伸ばす。
その際、骨盤を起こすことを意識する。
②  両肩を後ろに回してそのまま腕を下ろす。手は自然に身体に沿わせる。
③  目線を少しあげ遠くを見る。

これは、ヨガで「山のポーズ」とも言われるポーズ。この3つの動作をしたときの姿勢が、本来あるべき姿勢なのです。おそらく、背筋や太ももにふだんと違う違和感を感じる人が多いのではないでしょうか。人は日常生活に受けるストレスによって自律神経やホルモンバランスに乱れが生じます。恐れや不安などを感じたとき、筋肉が緊張し、血圧が上がり、呼吸が浅くなり、胃腸の調子がおかしくなる……。これらの症状はだれもが経験したことがあるでしょう。また、毎日数時間パソコンに向かっている人が多い現代では、前傾姿勢になりがち。いろいろな日常の積み重ねが姿勢にゆがみを生じさせてしまうのです。姿勢の悪さが全身のリンパの流れを滞らせ、代謝が落ちることで痩せにくくなり、老化にもつながるとされます。正しい姿勢が美人を作るのは見た目だけではないわけです。前述の「山のポーズ」を毎日5〜10分続けるだけでも姿勢改善の効果が期待できます。

美人の条件として加えたいのが、つやつやした美肌。リトルとハンコックが2002年に肌と好印象の関係についての実験をしています。実験では4枚の写真を用意。

A → ある男性のオリジナルの写真(何も加工されていない状態。あまり美形ではない。肌もきれいではない)
B → 複数の人間の写真を重ねて加工した「平均顔」の写真(※人の顔は平均化が進むほど美形に見えてくるというデータがあります)。肌はすべすべ。
C → 平均顔。肌はAのオリジナルのものであまりなめらかではない。
D → オリジナルの顔。肌はすべすべに加工。

これら4枚の魅力が高い順を調べた結果、一位はBで最下位はA。これは予想通りでしたが問題はCとD。顔の造りからすればCのほうが美形と感じるはずなのに、Dとの評価の差があまり見られなかったそうです。つまり、肌の美しさは顔の美しさに匹敵する魅力があると言える結果になったのです(出典:越智啓太著「美人の正体」実務教育出版)。「色の白いは七難隠す」と昔からある通り、美しい肌は人を魅きつけてくれそうです。

コラム/素肌美人と化粧品

つやつや素肌美人を目指そうと化粧水や美容液、クリームなどをひたすら肌に使うなど、洗顔やピーリングで肌の角質を落とそうとするのは、ちょっと待ってください。つやのある肌になるためには過剰なお手入れは逆効果かもしれません。なぜか。その理由のひとつには肌の常在菌が大きく関わっていると医学博士の青木皐氏は著書「ここがおかしい菌の常識」(集英社文庫)で紹介しています。それによると人の肌は常在菌+体から出る皮脂の脂肪酸による二重のバリアによって守られているそうです。皮膚の表面は2、3日で生まれ変わっているので放っておいても汚れは垢とともに落ちていくそう。それをお湯でさっと洗い流せば終了のところを、現代女性はいろいろな洗顔料で洗い過ぎているため、バリアまで失ってしまい、結果肌荒れを招く場合があるのだとか。「洗いすぎを避けて、保湿性のあるクリームを少しすり込み、手や、足のかかとなどを尿素配合のようなクリームで保護しておけば、常在菌が減りすぎも増えすぎもしない、健康的で正常な肌になるはずだ」と青木氏は著書で語っています。お金も手間もかからない美容法と言えるので、試してみては。

もうひとつ、健康的な肌のためには正常な新陳代謝が必要になります。健康的な内面があってこそ美肌が作られるのです。それには、食べものも重要なファクターになります。中医学の考え方からするとつや肌になるためには「赤・緑・白•黒」の食材を摂ることをおすすめします。潤いアップには白いもの、リフトアップには黄色い食べ物がいいとされます。肌のたるみは胃腸が弱っている証拠だとか。いくら肌のお手入れをしてもジャンクフードやインスタント食品ばかり口にしていては、美肌にはなれないはず。今日、食べたものが明日の肌を作るのです。身体の内側から見直せば、つやのある肌になるのはもちろん、元気に生き生きとした毎日が表情を明るくすることで人間的な魅力もアップするのではないでしょうか。