人は、他者の見ためにプラスして、風の噂などごく限られた情報を当てはめて相手のパーソナリティを決めてしまうことがあります。これを心理学的には「印象形成」と言います。そして、相手のパーソナリティを決めるときの基準となるのが「ステレオタイプ」と「暗黙の性格観(人格観)」です。
「ステレオタイプ」とは、よく巷で言われるひな型を当てはめること。「スーツを着た人はちゃんとしている」「美人はモテる」「血液型がA型の人は几帳面」などなど。よくよく考えると根拠がない場合が多いのですが、ほんの数分前にあった人など、その人となりの情報が少ない場合はこういったひな型を当てはめてしまうのでしょうね。そして、ステレオタイプの定義は世間一般に広く浸透しているものが多いため安定していて、普遍な場合も多いのです。
「暗黙の世界観」は、自らの経験や知識、もしくは先入観などから判断してしまうこと。これは人によって異なるため、「何を基準にそう思っているのか?」と他者と相容れない場合もあります。とくに初対面のときや、あまり長く話をしたことがない相手からは自分が望む・望まざるに関わらず、自分の人間性が決められてしまうわけです。
脳科学の研究では、次のようなデータがあるそうです。脳の海馬という部分とその周辺部から出る「シータ波」という脳波があります。人が何かに興味を持っていたり、注意をひかれたりしたときにこのシータ波が出やすい状態になり、シータ波が出ているときは集中力や記憶力がよくなる傾向にあるそうです。シータ波は楽しいときやここちよさを感じているときにも出るそうです。心理学と脳科学を応用すると……。初対面やまだ知り合って間もない人と会うときは相手にここちよさが感じてもらえる服装を心がけると自分に興味を持ってもらいやすくなったり、こちらの話に集中してもらえる確率が高くなります。ファッションをコミュニケーション・ツールとするうえで、気をつけてほしいのは「他人が自分のことをどう見ているか」をちゃんと気にしているかどうか。いくら「ステレオタイプの服装だから大丈夫だろう」と思っても、シチュエーションによっては当てはまらない場合があることもしっかり考えられていないと、逆効果にもなりかねません。
初対面の相手と会う際、どんなファッションを選択すればいいかを決めるときには「ステレオタイプ」や「暗黙の世界観」なども判断材料にしながら自分を客観的に見ることが大切になります。自分を俯瞰で見られる能力のことを心理学的に「メタ認知」といいます。「メタ」とは「高次の」という意味。自分の考えかたや行動などを第三者的に見ることができる人は「メタ認知能力」が高い人になります。逆に「メタ認知能力」が低い人は「自分がこう思っているから、相手もそうだろう」という思いこみで行動することが多くなるため、自己中心的になりがち。
人とのコミュニケーションをスムーズにするためには「メタ認知能力」を高めたいものです。ではどんなセルフトレーニングはどうすればいいのか? すぐにできそうな方法のひとつに、日々のできごとや自分の気持ち・1日の反省点などを書きとめる方法があります。たとえば、最近、「悩みが軽くなる」と注目されている「メンタフダイアリー」も同じ手法。「メンタフ=メンタルタフネス」とは、ストレス耐性を指した言葉です。悩みやストレスについて書き出して自分の心のクセなどに気づくことで、自分が陥ってしまうつまずきのパターンを知り、それを回避することができるようにする日記型のトレーニング方法です。アメリカでは保健医療の対象にもなっている「認知療法」のひとつ。最近ではメンタフダイアリーが実践できるアプリもあります。つまり、文字に書き出すことで自分の行動のモニタリングを習慣化するわけです。メタ認知能力を高めることで、人と会う際の服選びの失敗も少なくなり、相手の印象形成にもいい影響を与えられ、気持ちのいい面談だった思ってもらうことで記憶にも残りやすくなります。