コミュニケーションの語源はラテン語で「分かちあう」を意味する「communicare」だそうです(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)。社会生活を営むうえで必要不可欠なもので、だれもが意識せずとも行っている。とはいえ、多くの人が悩み、模索しているテーマでもあります。
コミュニケーションの基本は、相手に自分の気持ちを伝え、相手の気持ちを聴くことです。言葉にしてしまえば、とてもシンプル。ただ、言葉の選びかたや相手の受け取りかたによって同じ会話でも意味が違ってくることもあるので、なかなか厄介なシロモノでもあります。
心理学的で言葉は2種類に分けることができます。ひとつはおしゃべりや文字などのいわゆる言語。もうひとつあるのが非言語と言われるもので、話し方(声のトーンや抑揚など)、表情、視線、姿勢、そしてファッションなどが含まれます。言語はとても直接的です、非言語は感覚的。人は話す内容には気を遣っていますが、ほかの非言語ツールがどれだけ機能しているかを気にしていないことが多いように思います。
進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは著書のなかで、人間の表情が表現する感情は、人類に普遍的なものだということを論じています。(チャールズ・ダーウィン著「人間および動物の表情について」より)。つまり、喜びや悲しみを表す人間の表情はいつの時代、どこに行っても変わらないということです。
ダーウィンの言葉通り、人の表情が普遍的なものだと実感できるできごとが最近ありました。2012年にマイクロソフト社が申請した特許で、ユーザーの感情に合わせた広告が表示されるように設計されたコンピュータ・システムがそれです。ゲーム機、パソコン、スマートフォンを含めたモバイル端末などのツールにユーザーの表情、体の動きなどから感情を測定・判断し、広告をピックアップするソフトウエアだとか。もちろん検索ワードやメール、オンラインゲームからのデータなども判断材料にはされるそうですが、最新テクノロジーの分野で人間の表情、つまり非言語ツールがいかにいろいろな情報を含んでいるのかが認知されているわけです。言葉だけに頼らないコミュニケーションを有効活用できれば、とても強い武器になるのではないでしょうか。
非言語ツールのなかでだれもが比較的、気をつけているのはファッションでしょう。仕事や学校など公の場では、言語よりファッションのほうがおしゃべりな場合も多々あります。というのも、たくさん人がいるなかで自分に発言する機会が与えられないケースも珍しくないからです。発言はしなくとも、相手には見られている。つまり非言語ツールのみを使ったコミュニケーションはしている訳です。
では、ファッションというコミュニケーション・ツールで相手に伝わるのはどんなメッセージなのでしょうか。たとえば、ビジネスシーンの場合、きちんとアイロンがかかっていることがわかるシャツやスーツ・ハンカチなどを身につけている人と、しわだらけで薄汚れたものを着ている人がいるとします。どちらに好意を抱くかはおのずとわかりますね。ヨレヨレの服を身につけて会議に参加したとき「この仕事を重要に思っていないな」とほかの人から思われても仕方がありません。プライベートでも、清潔感のある服装やおしゃれをして来たことがわかる服装のほうが、会う相手も「自分と会うことを大事に思っていてくれるんだな」とうれしく思うはず。逆に言えば、服装に気を遣うだけでじぶんの気持ちを相手に伝えることができるのですから、ファッションとは、とても使い勝手のいい非言語ツールにもなり得るのです。